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(転載)成長と循環 一方だけ追求できぬ 法政大学教授 山口 二郎 (2015/4/27)

成長と循環 一方だけ追求できぬ 法政大学教授 山口 二郎 (2015/4/27)

http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=33155



 春になると、花が咲き、緑が増える。季節は毎年同じことを繰り返す。花見に表れるように、その繰り返しがうれしいわけだし、また自然が同じことを繰り返してくれなければ、人間は生きていけない。これは循環という時の流れである。他方で、成長、発展という時の流れもある。大学では卒業生を送り出し、新入生を迎える。この人の入れ替わりが、成長という流れの表れである。教師という仕事は他人の成長を見守るというありがたい仕事である。日本で4月に新学期を始めることにしたことは、循環と成長が交錯することを味わわせてくれるという効果を持つ。人間も生物であり、学校と農業は循環と成長の交錯の中で仕事をし、喜びを見いだす。

・政府戦略に疑問

 最近の日本では、特に政府の政策でもっぱら成長の流ればかりを追い求めている。成長戦略なるものの中身を見れば、大学の研究成果を基に金儲(もう)けせよとか、雇用の規制緩和を進めて、ありていに言えばタダ働きを広げることで金儲けできるようにしようとか、ろくでもない政策が並んでいる。

 農業もその中で成長産業に転換することが求められている。数十万円の値がつく果実を栽培して輸出するのは結構なことである。しかし、それは学校に例えれば、例外的秀才相手の英才教育のようなものである。社会を構成する普通の人間を知的に鍛え、立派な社会人にすることが教育の主眼であるのと同じように、国民が必要とする食物を安定的に育てることが農業の主眼である。例外的秀才をもてはやすことで農業が成長するわけではない。

 農業は循環という時と自然の流れに従うという宿命を持っている。最近、NHK―BS1の「世界のドキュメンタリー」という番組で、米国の放送局が制作した「危険な時代に生きる」というシリーズが放映された。これは気候変動が進むことで人類にどんな影響が及ぶかを詳しく報告した番組である。これを見て、地球の自然が循環の流れを失いつつあることを知り、慄然(りつぜん)とした。一定範囲内での気温の上下、適度な雨など、自然の循環が乱れ、洪水、旱魃(かんばつ)が増えている。それは可住地域の喪失と食料生産の減少に直結し、さらにそのことは食料価格の高騰を通して、特に途上国における政治の不安定化、そしてテロや暴力をもたらす。番組の中で米国のオバマ大統領が、気候変動を抑えることは安全保障の観点からも大きな課題だと述べていた。

・自然にほころび

 循環というと、同じところをぐるぐる回って進歩がないという否定的イメージもある。だが、やみくもに成長ばかりを追求するのは無理である。春になると、毎年同じようにわれわれは花や緑を愛(め)でる。循環の中で生きることの喜びを味わうわけである。自然の循環のほころびは、循環を無視して成長だけを望む人間が作り出した問題である。

<プロフィル> やまぐち・じろう

 1958年岡山県生まれ。東京大学法学部卒。北海道大学教授などを経て2014年に現職。現実政治への発言を続け、憲法に従った政治を取り戻そうと「立憲デモクラシーの会」を設立。近著に共著『徹底討論 日本の政治を変える』。

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